南シナ海問題を習近平と
棚上げにしたドゥテルテ大統領の
正体と、有事の可能性とは
中国専門ジャーナリスト福島香織が語る「チャイナリスク2017 衝撃の真実」
国際仲裁裁判所の判決が出てから開催されたラオス・ビエンチャンでのASEAN外相会議では、共同声明にフィリピンが盛り込むよう求めていた仲裁裁判所判決の内容は触れられなかった。これは中国から多額の経済支援を受けているカンボジアやラオスが強く反対したからであった。
また、王毅外相はケリー米国務長官との会談の席で、中国とフィリピンの二国間協議を米国に求め、「米国はフィリピンが一方的に提訴した仲裁案の内容に対して立場を持たず、フィリピンと中国の対話の再開を支持し、双方が対話をもって目下存在する問題を解決することを支持する」との言質を引き出している。
九月に中国浙江省で開かれたG20、続くラオス・ビエンチャンで行われたASEAN首脳会議でも、判定を無視する中国への非難は声明に盛り込まれなかった。それどころか、ビエンチャンでドゥテルテがオバマを「売春婦の息子」と罵倒して、首脳会談がドタキャンになった件などを見れば、米・フィリピンが協力して中国の南シナ海覇権を力づくで封じ込めるというシナリオはどう見ても考えにくい。
こうした当事国のフィリピンを含むASEAN諸国、残り任期の短い米オバマ政権の中国の南シナ海問題に対する腰の引けた姿勢の理由は、南シナ海で偶発的であっても戦争のような事態は絶対に起こしたくないからだ。そうなってくると、中国もあえて無理に戦争を仕掛けるきっかけはつかみにくくなる。
だが、それは有事の可能性が先延ばしにされたというだけのことだともいえる。
※福島香織著『赤い帝国・中国が滅びる日』発売記念、緊急抜粋連載。
著者略歴
福島香織(ふくしま・かおり)
1967年、奈良県生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社大阪本社に入社。1998年上海・復旦大学に1年間語学留学。2001年に香港支局長、2002年春より2008年秋まで中国総局特派員として北京に駐在。2009年11月末に退社後、フリー記者として取材、執筆を開始する。テーマは「中国という国の内幕の解剖」。社会、文化、政治、経済など多角的な取材を通じて〝近くて遠い国の大国〟との付き合い方を考える。日経ビジネスオンラインで中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス、月刊「Hanada」誌上で「現代中国残酷物語」を連載している。TBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」水曜ニュースクリップにレギュラー出演中。著書に『潜入ルポ!中国の女』、『中国「反日デモ」の深層』、『現代中国悪女列伝』、『本当は日本が大好きな中国人』、『権力闘争がわかれば中国がわかる』など。共著も多数。
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